デジタル技術を積極活用し業務変革に取り組んでいる三井住友信託銀行では、個人のお客さまターゲティングの精度向上を目的にdotDataを導入。金融商品の成約率が高いと思われるお客さまをAIが導き出すことで、成約率向上を実現しました。また、データサイエンスの高度なスキルを持たない本部企画の担当者でもAIモデルの構築が可能になったとともに、モデル構築に用いられた「特徴量」が分かりやすい形で可視化されるため、営業担当者にAIの有用性について説得力をもって説明できるようになりました。
課題
- 手作業によるターゲットリスト作成の精度向上に限界
- データと業務知識を併せ持つ人材が限られていた
- 既存のAI統計ツールは分析に時間を要し、タイムリーな分析が困難だった
- マニュアル化しにくい優れた営業担当者のスキルを横展開する仕組みが必要だった
ソリューション
効果
- dotDataを用いたお客さまターゲットリスト活用により成約率の精度が約20倍に
- 専門スキルがなくても複雑なAIモデルを構築可能に
- 分析時間が短縮したことで精度向上のためのチューニングが繰り返し実行可能に
- 営業担当者の感覚をデータで裏付け、スキルの横展開が可能に
お客様の声
近藤 敬佑氏
専門スキルがなくても仮説検証が行いやすいdotDataは、現場主導によるAI活用を進める上で非常に有用なツールです。
長尾 将宏氏
dotDataであれば、専門スキルの無い本部企画担当者もAIモデルの構築・チューニングを独力で行えるようになるはずです。
個人のお客さまのターゲティング精度をいかに向上させるか
銀行業務と信託業務を一体的に手掛ける専業信託銀行として、三井住友トラスト・グループの中核を成している三井住友信託銀行。同行は個人のお客さま向け、法人のお客さま向け、資産管理、不動産など、実に幅広い事業を展開しています。近年ではデジタルトランスフォーメーション(DX)に積極的に取り組んでおり、中期経営計画においては「デジタル技術の活用」と「デジタル人材の育成」を大きな柱に掲げています。同行の長尾将宏氏は「『新技術への挑戦』『データサイエンスの高度化と活用拡大』『業務インフラの高度化』『人材のリスキリング』の4つの戦略を掲げて、デジタル戦略を加速させています」と、同行が進めるDXの方向性について説明します。そうした取り組みの1つに、個人のお客さま向けサービスを担う、個人事業におけるAIの活用があります。個人事業のメインターゲットは、相続や遺言信託など次世代に財産・事業を引き継いでいく「高齢層」です。一方、近年はスマホアプリをはじめとしたデジタルチャネルを展開し、これから資産を形成していこうとする「資産形成層」へのアプローチにも注力。ミドルからシニアまで世代別コンサルティングを実施することで、金融のトータルソリューションを提供しています。
同行の近藤敬佑氏によれば、こうした個人のお客さま向け商品の営業活動を支援するために早くからAIを活用してきたといいます。「どのお客さまに、どういった商品を提案すべきかを営業担当者に示す際、これまでは過去の経験則に基づいて『定期預金の満期を迎えるお客さま』『運用商品をお持ちのお客さま』などを中心に『ターゲットリスト』を作成していました。
しかし、お客さまのニーズや属性が多様化し、その変化のスピードも加速する中で、多様化するお客さまのニーズにより的確にお応えしトータルソリューションを提供するには、ターゲットリストの精度をより高める必要があります。そのための手段の1つがAIの活用です」(近藤氏)
お客さま行動のより深い理解へdotDataの「特徴量自動設計」を採用
三井住友信託銀行は2016年頃から、お客さまの動向や属性に関するデータをより詳細に分析し、その結果をターゲティングに反映させる目的で、AIの機械学習を用いた統計ツールを試験的に導入しました。その結果、一定の効果は得られたものの、同時にさまざまな課題が浮かび上がりました。「優れたAIモデルを作成するためには、お客さまの行動を深く理解し、有効なパターンをAIに入力する必要がありますが、これには高度なスキルを要し、作業負荷もかなり高く分析に時間がかかり過ぎていました。限られた人的リソースの中で、ターゲットリストを継続的に高度化するには、既存のAIツールでは難しいと考えました」(近藤氏)
こうした課題を解決するために着目したのが、データから隠れたパターン(特徴量)を自動的に発見可能なAI技術である「dotData」でした。dotDataの特徴量自動設計によってターゲティングすべき お 客 さ ま の 行 動 を 理 解 し、 またAutoML(機械学習自動化)によってAIのモデリングも自動化できるため、課題解決の最適なソリューションでした。「多くのAIツール・製品は特徴量がブラックボックス化されています。そのため、分析スキルが属人化しがちで、AIが導き出したリストを営業担当者に分かりやすく説明できません。その点、dotDataはデータサイエンスの高度なスキルがなくても複雑なAIモデルを短期間で開発できる上、ビジネスで役に立つ特徴量を発見し、誰でも理解できる形で可視化できるのが魅力的でした」(近藤氏)
dotDataを試験的に導入し、ターゲットリスト作成などいくつかの業務シナリオに沿って評価したところ、期待通りの効果が得られ、同行は正式にdotDataを採用しました。dotDataの分析で成約率に20倍の差がdotDataの導入後、dotDataを使ったターゲットリストの作成作業を開始。同行内で管理しているお客さまの年齢・職業等の属性情報や預金・投資信託・保険等の過去の取引履歴等、500万件に及ぶ大量のデータをdotDataによる分析にかけ、成約率がより高いであろう金融商品を割り出すAIモデルを構築していきました。その過程で、思いもよらぬ特徴量が抽出されることもあったといいます。
「例えば運用商品の提案先をターゲティングする際に『住宅ローンの残高』『相続関連商品の保有状況』『定期預金の解約回数』といった、従来は運用商品と直接関係ないと思っていた特徴量も数多く見いだされました。ベテランの営業担当者の中にはそうした傾向を把握していた人もいたかもしれませんが、明確に可視化されたことで若手や新人にもナレッジとして広く共有できるようになりました。dotDataによる分析は、営業力の底上げにつながると考えています」(近藤氏)
AIが提示した内容をもとに、お客さまに提案すべき商品を「商品別ニーズフラグ」としてターゲットリストに含めて営業担当者に提供しましたが、当初は戸惑いや抵抗も見られました。しかし、dotDataが提示する特徴量に関する情報に基づいて、それぞれの商品別ニーズフラグの根拠を分かりやすく説明する資料を作成したところ、時間がかからず理解が得られるようになりました。何より、商品別ニーズフラグの運用を続けるうちに「成約率」という目に見える形で効果が実証されていき、営業担当者からの信頼感が大きく変わっていきました。今ではこの情報をベースにした営業スタイルがすっかり定着しました。「商品別ニーズフラグで『ニーズあり』と示されているお客さまと『ニーズなし』と示されているお客さまとを比較すると、成約率に約20倍もの差があることが分かりました。こうした具体的な効果が出ていることから営業担当者からの信頼も得られております」(近藤氏)
今後はより幅広い業務にdotDataの導入を計画
ターゲットリスト作成の成果を踏まえて、同行では他の業務にもdotDataを導入する取り組みを進めています。個人事業においては、既にダイレクトメールの送付先をAIで絞り込むためにdotDataを活用。長尾氏によれば、その他の事業においても現在dotDataの導入検討が進められているといいます。「マーケットの分野では、キャンペーンの効果分析にdotDataの活用を検討しています。また、コールセンターにおける受電量をAIで予測する試みも進んでおり、ここでもdotDataの活用を検討しています」(長尾氏)
さらに、個人事業におけるターゲットリストと同様の取り組みを、法人のお客さま向けに実施する計画も進行中です。より多くの事業で導入メリットを享受すべく、デジタル企画部が中心となってハンズオン形式でdotDataの研修を実施しており、長尾氏は「各事業がdotDataを使って独力でAIモデルの構築やチューニングをできるようにするのが最終目標です」と将来構想を語ります。無論、個人事業におけるターゲットリストの施策も、いったんAIモデルを構築して終わりではなく、今後もdotDataを通じたチューニングを繰り返しながらより精度を高めていく予定です。「AIモデルをチューニングする際、dotDataのように特徴量が分かりやすい形で可視化されると専門スキルがないユーザーでも仮説を検証しやすく、トライ&エラーによるチューニングを進めやすいのです。そういう意味で、dotDataは各事業によるAI活用を進める上で非常に有用なツールです」(近藤氏)
三井住友信託銀行株式会社
https://www.smtb.jp/所在地 | 〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-4-1 |
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従業員数 | 13,740名 ※2021年3月31日現在 |
創業日 | 1925年7月28日 |
事業内容 | 三井住友トラスト・グループの中核を成す専業信託銀行として「個人のお客さま向け」「法人のお客さま向け」「投資家向け」「資産管理」「不動産」「マーケット」「プライベートバンキング横断領域」「資産形成・職域横断領域」の8つの事業を展開。「The Trust Bank」ブランドの確立を目指している。 |