日本ゼオン株式会社は、1950年の設立以来、日本で初めて合成ゴムの量産化に成功するなど、独創的な技術で優れた製品を生み出してきました。現在は、合成ゴムや合成ラテックスなどのエラストマー素材事業、高機能樹脂・部材、電子材料、電池材料、化学品、医療器材を扱う高機能材料事業など、事業を多角化。顧客企業には世界有数の大手メーカーが名を連ねます。
幅広い事業を展開し、どの領域でも顧客から高い信頼を得ているその根底には、同社の厚みある研究開発力があります。同社の総合開発センターには19の研究所・室があり、約400名が研究開発に従事。その中で、データサイエンスを通じて各研究所や工場の業務を支えているのが、基盤技術研究所(以下、基盤研)です。
所長の小野裕己氏は、「新素材を開発する、顧客の要求にジャストミートするよう既存の製品を改善する、あるいは工場の生産効率を高めるための環境整備をする―そうした課題の解決に向け、AIやIoTを駆使してサポートするのが、私たちの使命です」と説明します。
材料開発研究の質とスピードを高める施策の一環として、基盤研では2017年ごろから、実験やシミュレーションの結果を、情報科学の手法や機械学習を用いて解析して素材開発に活かす「マテリアルズ・インフォマティクス」に取り組んできました。しかし、その過程でいくつかの課題に突き当たりました。
1つは、データの収集・解析には高度な専門性が問われること。他の研究所や工場など現場からの解析依頼は年間数十件に上り、その度に基盤研の研究員がデータの収集・整理を支援し、さらに手作業でデータの解析を行ってきました。その結果、基盤研の研究員の負担が増加し、メインミッションである高度な解析業務に十分な時間を割けないケースが増えていました。
もう1つが、手作業では膨大な変数に対応しきれないこと。小野氏は、「主剤・添加剤・充填剤などさまざまな配合を持つ複雑な材料の解析では、変数の組み合わせが数千にもおよびます。手作業による解析に限界がありました」と明かします。
現場の社員たちが自ら解析を進めることができるAIエンジンが必要とされていましたが、複雑なプラットフォームでは現場への展開が見込めません。精度と手軽さを高いレベルで統合できるAIエンジンはないか。こうした課題意識のもと、基盤研が注目したのがdotDataでした。