横浜ゴム dotData AI活用事例
横浜ゴム株式会社

「人とAIの協奏」で目指すものづくり革命
dotDataで、タイヤの性能と開発・製造プロセスを改善

業界:メーカー 製造業
ソリューション:品質改善 製造プロセス効率化

世界有数のタイヤメーカーの横浜ゴムは、半世紀以上にわたり革新してきたものづくりの技術をさらに飛躍させるためにdotDataを導入。製品設計・製造プロセスから得られるデータに適用し、タイヤの性能と設計プロセスを改善しています。試作評価のデータからdotDataによって抽出された特徴量に、さらに人が解釈を加えることで完成品のタイヤの特性と説明変数との間の関連性を割り出し、タイヤの性能向上を実現。また、製造プロセスにおける「ゴムの混合プロセス」の本質の理解を深めながら改善するなど横浜ゴムのタイヤ開発・製造プロセス全体に活用しています。

課題

  • データ活用による製品開発や製造工程の高度化
  • タイヤ技術をさらに飛躍させるために設計者の経験に依存した開発からの脱却
  • 過去の経験だけでは導き出せない新たな発想を得るための仕組み

ソリューション

効果

  • タイヤの設計・製造因子と完成品の特性との関係性を見いだしてタイヤの性能向上を実現
  • ゴムの物性値に影響を与える製造プロセスデータを特定して品質向上を実現
  • 冬用タイヤの氷上制動性能に強く影響する設計因子と環境因子を特定して定式化に成功

お客様の声

小石 正隆氏
横浜ゴム株式会社 エグゼクティブフェロー 研究先行開発本部 AI研究室 研究室長 博士(工学)

小石 正隆氏

dotDataによって到底発想し得ないような斬新な切り口の特徴量が多く抽出され、タイヤ開発のイノベーションに繋がっています。

多田 拡太郎氏
横浜ゴム株式会社 研究先行開発本部 AI研究室 主幹 博士(工学)

多田 拡太郎氏

dotDataの活用を通じて材料開発メンバーも納得する混合プロセスの本質に繋がる気づきも得られました。この副次的効果もdotDataのおかげです。

AIやデータ分析を活用したイノベーション

日本を代表するタイヤメーカーとして、国内はもとより海外でも広くその名を知られる横浜ゴム。一般乗用車用からモータースポーツ用タイヤ、高いシェアを誇るスタッドレスタイヤといった各種タイヤ製品のほかにも、タイヤホイール製品やゴルフ関連製品、工業品・航空部品などの分野でも幅広く事業を展開しています。同社は、主力製品であるタイヤの研究開発や設計、製造などの業務において、早くからデータ分析やAIの技術を活用してきました。マルチスケール・シミュレーションなどのシミュレーション技術や「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」などのAI技術を用いた材料開発に取り組んできたほか、2020年には「HAICoLab(ハイコラボ)」というAI利活用構想を立ち上げ、より一層AIやデータ分析の活用に注力しています。

これらの施策について、横浜ゴムのAI研究室で研究室長を務める小石正隆氏は次のように説明します。「AIで業務をどんどん自動化することよりも、人の良さとAIの良さをうまく掛け合わせた『人とAIの協奏』による課題解決を目指しています。課題解決のアクションに繋がる道筋となる仮設を設定し、AIやデータ分析で得られた情報に人が解釈を加えます。そこでの気づきやひらめきをうまく活用することによって、継続的に技術を磨き上げていく『漸進的イノベーション』と新たな発想に基づいた『急進的イノベーション』の両方をにらみながら技術革新を進めていきたいと考えています」この目的を果たすために、AI活用においても単にディープラーニングで予測モデルを構築するだけでなく、データと予測値との間の関係性を人が理解できるかたちで導けるよう、さまざまな工夫を凝らしてきました。

dotDataの特徴量がタイヤ設計プロセスを加速

dotDataの特徴量がタイヤ設計プロセスを加速

しかし、こうした工夫にも限界があったと小石氏は話します。「以前から、インプットデータとアウトプットデータの間の関係性を探る取り組みを進めてきましたが、扱える因子の数に制限があったり、因子そのものは分析対象とデータ分析の両方に詳しい人間が設定する必要があったりと、さまざまな課題がありました」そんな折に出会ったのが「dotData」です。dotDataはアウトプット(予測したい目的変数)とインプット(設計やプロセスに関するさまざまな説明変数)を入力すると、「AIが重要な特徴量を自動的に発見・抽出してくれる」という大きな特長があります。小石氏はこの点に着目し、「これまでデータ分析を適用できなかった領域へ展開できるのではないか」と考えました。dotDataは人間が理解できる形で特徴量を自動的に抽出します。

この点が「人とAIの協奏」を掲げる同社のAI活用のポリシーにまさに合致するものでした。dotDataを試験導入してPoC(概念実証)を実施したところ、その有効性が確認できたため、正式に導入を決定。真っ先にdotDataを適用したのが、高性能タイヤの設計業務です。スポーツカーに装着される高性能タイヤではひときわ高い走行性能とその安定性が要求されます。「社内では、高性能タイヤの設計仕様と共に、ゴム材料を混合しタイヤを成形し加硫する製造プロセスの条件を見直すプロジェクトを進めていました」(小石氏)

そこで、試作評価で取得した各プロセスのデータをまとめてdotDataに投入し、試作品の特性向上に寄与すると考えられる「特徴量」を自動設計させ、プロジェクトメンバーで解釈を加えて次の試作に盛り込むことを繰り返したところ、「段階的に性能と安定性が向上してきました。また、新たな計測データも含めた分析結果に解釈を加えることで新たな気づきが得られ、結果的にタイヤの設計プロセスを革新するためのデータ活用が一気に加速しました。高く設定したゴールはまだ先ですが、ゴールに到達するという直接的な成果だけではなく、dotDataを活用する過程でさまざまなデータと対峙して初めて気づいたことが少なくありません。そのような気づきを副次的効果と呼んでいますが、それもdotDataを活用したことによる成果と捉えています」(小石氏)

引き続き、設計から混合、押出、圧延、成形、加硫、検査に至るすべての製造工程に渡ってデータを取得し、それらとタイヤの計測・評価データとの関係性をdotDataで分析することで、さらなる製品性能の向上や品質安定化、さらに、生産性向上を図る“ものづくり革命”を進めていくようです。

ゴムの混合プロセスの
最適化を実現

タイヤの設計開発のプロセスだけでなく、タイヤの製造工程にもdotDataによるデータ分析を導入しました。例えば、ゴムの原材料や配合剤を混ぜ合わせる「ゴム混合プロセス」の最適化のためにdotDataを導入したところ、着実に成果が上がったといいます。「原材料や配合剤を混合した結果、完成するゴムは、あらかじめ定められた幾つかの物性値の条件を満たす必要があります。しかし、さまざまな外部要因の影響を受けるため、常に一定の物性値が得られるとは限りません。そこでより安定した結果が得られるよう、混合機のロータ回転速度や消費電力、混合時間、材料を投入するタイミング、外気温といった諸因子と物性値との間の関係性をデータ分析によって明らかにしようと考えました」こう語るのは、同社のAI研究室で主幹を務める多田氏。過去に行ったゴム混合プロセスのデータとその物性値をdotDataに学習させ自動生成された特徴量に、人が解釈を加えてさらなる仮説検証を実施することで、物性値を狙い通りに推移させるための因子の特定に成功しました。現在、より厳しい条件が要求される高性能タイヤの混合工程に同様の仕組みを適用すべく、さらなる精度向上に取り組んでいます。「また、dotDataの活用を通じて材料開発メンバーも納得する混合プロセスの本質に繋がる気づきも得られました。この副次的効果もdotDataのおかげです」(多田氏)

さらに、冬季に利用されるスタッドレスタイヤの設計にも、dotDataを活用しています。スタッドレスタイヤで重視される性能は、凍った路面でいかに短い距離で減速・停止できるかという「氷上制動性能」です。この性能をさらに向上させるべく、どのような因子が氷上制動性能に影響するのかを過去の試作評価データをもとにdotDataで割り出し、それらの特徴量を用いて重要な因子と制動距離との間の関連性を定式化することに成功しました。定式化する際にはdotDataで得られた特徴量に解釈を加えることで設計プロセスにとって利便性の高い、つまり、タイヤを試作する前に決定できる設計因子に基づいた見通しの良い関係式を得ることができました。

今後はより多くの対象に
dotDataを活用

今後はより多くの対象にdotDataを活用

このスタッドレスタイヤの取り組みでも、現在さらなる予測精度向上を目指した施策を進めているところだと小石氏は話します。「現在得られているデータの範囲内であれば制動距離を算出する式を確立できていますが、データが存在しないがために予測精度の悪い設計領域があることも同時に判明しています。そこで、現在はこの部分を補完するためのデータを新たに取得するべくタイヤ開発の関係者とも連携して試作検証を繰り返しているところです」

そのほかにも、過去の試作評価で蓄積された現実データとFEM(有限要素法)などの数値シミュレーションで得られた仮想データを利用することで、多次元のインプットデータ(設計因子)と多次元のアウトプットデータ(特性値)との間の関係性を明らかにし、更にその複雑に絡み合う情報をわかりやすいかたちで設計者に提供することを目指していくという。「データ分析者ではない人達が“おもしろさ”を感じながら、気づきを得られるように情報を提供することが1つの目標です。dotDataの活用でその目標を達成できるよう、dotDataの更なる機能拡張に期待しています。また、現在のdotDataを使って実現できることは技術領域以外にも数多くありますので、固定化された認識や制約を揺さぶりながらバイアスを排除してさまざまな領域の課題解決に活かしていきたいと考えています」と、小石氏は最後に語りました。

横浜ゴム株式会社

https://www.y-yokohama.com/
所在地 〒105-8685 東京都港区新橋5-36-11
従業員数 27,222名 ※2021年12月末現在、連結
創業日 1917年10月13日
事業内容

日本初のコードタイヤの製造に成功して以来、「ヨコハマタイヤ」のブランド名で知られる独自性の強い商品をグローバルに広く販売。タイヤ開発で培ってきたゴム高分子技術、複合化技術、金属加工技術、設計技術をベースに、産業・生活を支える製品群を生み出すマルチプルビジネス(MB)事業も展開する。

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