データドリブン組織の設計図|DX人材育成は「分析スキル」だけでは失敗する? 企画から運用を成功させる「三位一体」モデル(連載 第3回)
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「DX人材育成」と聞いて、まず思い浮かべる施策は何でしょうか。多くの企業が、SQLやPythonのプログラミング研修、統計学の基礎講座といった「分析スキルの習得」に多大なリソースを割いています。
しかし、いざ育成した人材を現場に投入しても、思うような成果が出ないという声をよく耳にします。「きれいなレポートは出てくるが、ビジネスの意思決定には使えない」「高精度な予測モデルはできたが検証で終わってしまった」こうした状況はなぜ生まれるのでしょうか。
dotDataでは、データ活用推進のための人材と組織変革において、データ活用は特定の専門家だけでなく、組織全体で取り組むべき課題であると述べました。この「組織全体での取り組み」を具体化するためには、分析作業そのものだけでなく、その前後にあるプロセスや、それを支える多様な専門人材の存在を理解する必要があります。
本連載の最終回となる今回は、データ活用プロジェクトを成功させるための「企画・分析・活用」の3フェーズと、それを推進するチーム編成、そして華やかな分析の裏側を支えるエンジニア群の役割について、全体像を解説します。
データ活用は、データセットをツールに投入して終わりではありません。ビジネス成果を生むためには、以下の3つのフェーズを循環させる必要があります。特に日本企業では、真ん中の「分析」に注力しすぎて、入り口の「企画」と出口の「活用」が疎かになる傾向があります。
ゴール:目的とゴールを明確化し、プロジェクト全体を設計する
最も重要なフェーズです。ここでは「何のためにやるのか(課題設定)」と「どう業務を変えるか(アクション仮説)」を定義します。
ゴール:データを検証し、素早いPDCAで示唆を得る
ここでは、BI・BA・PAの手法を用いて実際にデータを分析します。重要なのは、一度の分析で正解を出そうとせず、アジャイルにPDCAを回すことです。
ゴール:業務に組み込み、継続的な成果を生み出す
分析結果やモデルを実際の業務プロセスに統合します。ここがDXのラストワンマイルであり、最もハードルが高いフェーズです。

前述の3つのプロセスを回すためには、どのようなチームが必要でしょうか。
本連載の第1回では「データアナリティクスを推進する3つの機能」として、個人の役割定義(分析者、企画者、活用者)を行いました。実務プロジェクトにおいては、これらの人材がバラバラに動くのではなく、「三位一体」となって連携することが成功の条件となります。
第1回で定義した通り、ビジネスとデータの「バイリンガル(ハイブリッド型人材)」です。
実務プロセスにおいては、業務部門が抱える漠然とした悩みを「分析可能な課題(問い)」に翻訳し、プロジェクト全体の進行管理を担います。IT部門、分析部門、業務部門の間に立ち、利害調整を行うプロデューサー的な立ち回りが求められます。
データからインサイトやモデルを生み出す実務担当者です。
プロジェクトの中では、企画者が設定した問いに対し、SQLやBIツール、統計解析を駆使して答えを導き出します。単に数字を出すだけでなく、そこから言える「示唆」をビジネス部門にわかりやすく伝え、次のアクションを促す役割を果たします。
日本のDX推進において最も不足しがちなのが、この層の関与です。
主に業務部門の現場担当者を指します。分析結果を鵜呑みにするのではなく、その意味を理解し、自らの業務判断に取り入れる役割です。
プロジェクト成功の鍵は、この活用者が分析者に対して「現場の実感と違う」「こういう視点のデータも欲しい」とフィードバックを行い、対話型で分析をブラッシュアップできる関係性を築けるかにかかっています。

「データ分析」という華やかな成果物の裏側には、データを安定供給し、システムとして稼働させるための膨大なエンジニアリングが存在します。DX人材の育成を考える際は、アナリストだけでなく、以下のエンジニア職の確保・育成もセットで検討する必要があります。
どんなに優秀なアナリストも、データがなければ何もできません。
データエンジニアは、社内外に散らばるデータを収集・蓄積し、分析しやすい形に加工(クレンジング・構造化)して提供する役割を担います。データ活用の生産性は、彼らが構築するデータ基盤の品質に依存します。
ビジネス要件に基づき、BIツール(Tableau, Power BI等)を用いて、直感的に状況を把握できるダッシュボードを設計・構築します。アナリストがインサイト抽出に集中するのに対し、BIエンジニアは可視化システムの安定運用とUI/UXを追求します。
データサイエンティストが作った機械学習モデルは、作って終わりではありません。
MLエンジニアは、モデルを本番システムにデプロイし、精度の劣化(ドリフト)を監視し、継続的に再学習させる仕組み(MLOps)を構築・運用します。
クラウドベースの分析基盤の設計や、機密データのアクセス制御・ガバナンスを技術面から担保し、安全なデータ活用環境を提供します。

これまで3回にわたり、人材定義、組織モデル、プロセスについて解説してきました。これら全てを統合したものが、以下の「データドリブン組織の全体設計図」です。

本連載では、データドリブン組織に必要な「全体設計図(ブループリント)」を提示してきました。
CDOの設置、ハブ&スポーク型の組織構築、専門人材の定義、これらは企業が中長期的に競争力を維持するために不可欠な「大きな戦略」です。この土台なくして、持続的なDXは実現しません。しかし、立派な組織図や完璧なデータ基盤が完成するのを待っていては、ビジネスの機会を逃してしまいます。
重要なのは、「大きな戦略(全体設計)」を頭に置きつつ、足元では「小さな成功(Quick Win)」から始めることです。目的(解決したい業務課題)を明確にし、そこに熱意を持った「企画者」「分析者」「活用者」の小さなチームを作る。そして、不完全なデータでも構わないので、まずは分析し、業務に使ってみる。
この「小さな成功」の積み重ねこそが、組織全体の意識を変え、描いた「大きな戦略」を絵に描いた餅で終わらせないための唯一の駆動力となります。本連載が、皆様の組織における「戦略的な全体設計」と「実践的な第一歩」の一助となれば幸いです。
まずは自社の DX推進における現状を可視化し、不足している人材像を明確にすることが重要です。経済産業省が策定した「デジタルスキル標準」のようなフレームワークもありますが、本ブログシリーズで解説するように、データ活用を実践するにはより多様な人材が必要となります。また、育成を目的化しないよう、単に知識やスキルを学ぶだけでなく、具体的なデータ分析の企画や実践を取り入れた育成プログラムを推進することが、DXを成功させるための第一歩となります。
DX推進を加速させるには、専門家だけでなく企業の現場担当者がデジタルリテラシーを備えていることが不可欠だからです。分析結果を業務に活用する「活用者」としてのリテラシーがなければ、素晴らしい分析結果も「絵に描いた餅」に終わってしまいます。DX人材の不足を解消するには、外部採用だけでなく、事業部門がデータを活用するための実践的なリテラシーを身につけ、DXを推進することが重要です。
単なるeラーニング等の座学に留まらず、具体的なビジネス課題に即した「企画・分析・活用」のサイクルを経験できる内容かが重要です。DXを成功させるために必要なのは、SQL等のスキルを習得することだけではありません。DXの本質を理解し、データを活用して業務フローを変革する力を養う必要があります。dotDataが提供する「ビジネスアナリティクス(BA)人材育成サービス」では、分析の専門知識がない業務部門の方でも、生成AIの支援を受けながら自らデータからインサイトを導き出す「体験型」のプログラムを提供しており、全社的なリテラシー底上げを支援しています。
DXの推進には、両者の密接な連携が欠かせません。アナリストはデータから示唆を抽出するスキルを身につけている一方で、データエンジニアは分析の基盤となるデータのクレンジングや構造化を担います。こうした人材の育成をバランスよく進めることで、DX化された組織への転換が可能になります。組織全体のスキルを可視化し、各層に必要なスキルを定義した上で、効果的なチームを編成することが重要です。