データドリブン組織の設計図|「デジタル人材不足」の正体は組織不全? CDOが知るべき成功する組織モデル(連載 第2回)

  • ビジネスアナリティクス

「データ活用を推進できる人材が不足している」「せっかく人材を採用してもすぐに辞めてしまう」──。 DX推進において、多くの企業が「デジタル人材不足」を最大の課題として挙げます。しかし、その本質的な原因は市場の人材枯渇だけにあるのでしょうか。

dotDataでは以前、データ活用推進のための人材と組織変革において、データドリブンな文化を醸成するためには、経営トップのコミットメントと全社的な意識改革が必要であると述べました。この「文化」という土壌の上に、適切な「組織構造」という器があって初めて、デジタル人材は定着し能力を発揮します。

本連載の第1回では「個人の役割(データアナリスト)」を定義しましたが、第2回となる今回は、その人材が活躍するための「組織設計」に焦点を当てます。データ活用を成功させるためのリーダーシップ(CDO/CAO)の定義と、日本企業の特性に合致した現実的な組織モデルについて解説します。

1. データ戦略を牽引するリーダーシップの欠如

DX推進において組織が機能不全に陥る要因の一つは、データ活用に関する責任と権限の所在が曖昧であることです。特に日本企業では、従来のIT部門(CIO)の管轄下でデータ活用が進められることが多く、「守り」と「攻め」のバランスを欠くケースが散見されます。

データドリブン経営を牽引するためには、以下の役割定義を明確にする必要があります。

CIO (Chief Information Officer):IT基盤の守護神

CIOは、企業のIT戦略全体を統括し、基幹システムや業務システムの安定運用、コスト管理を担う責任者です。CIOの主眼はあくまで「システムの安定稼働」や「セキュリティ」に置かれることが多く、データを使ってビジネスモデルを変革する「攻め」の視点とは必ずしも一致しません。

CDO (Chief Data Officer):データ資産の管理者

CDOは、企業が保有するデータ資産(Data Assets)を管理・統制する責任者です。データの品質管理、データガバナンス、プライバシー保護など、データを「資産」として整備し、守る役割(Defense)を担います。米国ではCIOから独立したポジションとして設置されることが一般的です。

CAO (Chief Analytics Officer):ビジネス価値の創出者

CAOは、データ分析による価値創出を担う責任者です。データアナリストやデータサイエンティストを統括し、ビジネス視点で分析課題を設定し、業務改善や売上向上といった具体的な成果(Offense)を生み出すことをミッションとします。

CDAO (Chief Data & Analytics Officer):攻守の統合

近年、グローバルで急増しているのが、CDO(守り)とCAO(攻め)を統合したCDAOという役割です。データ基盤の整備から分析活用までを一気通貫で統括することで、責任分界点の曖昧さを解消し、データドリブン経営の強力な旗振り役となります。

データ戦略を牽引するリーダーシップと役割分担

日本企業においては、「デジタル人材不足」以前に、この「攻め(CAO)」と「守り(CDO)」の役割が整理されておらず、IT部門(CIO)の片手間でデータ活用が進められていることが、成果が出ない構造的な要因となっている場合があります。まずは経営レベルで、データ活用にコミットする専任のリーダーシップ(CDAO等)を設置する(あるいはその責任を持つリーダーを明確化する)ことが、組織変革の第一歩です。

2. 組織モデルの選択肢:中央集権か、分散か

リーダーが決まっても、実動部隊であるデータ分析チームをどこに配置するかという「組織設計」の問題が残ります。これには大きく分けて「中央集権型(CoE)」と「分散型(Embedded)」、そしてそのハイブリッド型が存在します。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社のフェーズに合ったモデルを選択する必要があります。

CoE(Center of Excellence)型:中央集権

全社のデータ人材を中央の一箇所(DX推進部やデータ分析部など)に集約するモデルです。

  • メリット: 人材の採用・育成・評価が一元化でき、ノウハウの蓄積や標準化が進めやすい点が挙げられます。特にデータ人材が不足している初期段階では効率的です。
  • デメリット: ビジネスの現場(事業部門)との距離が遠くなるため、「現場の業務課題がわからない」「分析結果が現場で使われない」という乖離が起きやすくなります。

Embedded型:事業部門完全分散

各事業部門の中にデータ人材を配置し、現場主導で推進するモデルです。

  • メリット: 現場の課題に即座に対応でき、業務変革(PDCA)のスピードが速いことが最大の利点です。
  • デメリット: 日本企業においてはこのモデルの難易度は高く、各部門でデータがサイロ化し、全社横断での統合やガバナンスが効かなくなるリスクがあります。また、事業部門単独での専門人材の採用・維持が極めて困難です。
データ活用組織の5つのモデルと進化

3. 日本企業における現実解:「ハブ&スポーク型」組織

前述の通り、完全な中央集権では現場に定着せず、完全な分散型では人材確保とガバナンスが破綻します。そこで、多くの日本企業にとって最も現実的かつ効果的な解となるのが、「ハブ&スポーク型」の組織モデルです。

Hub(中央組織・CoE)の役割

中央の「ハブ」機能は、CDAOやCAOが統括し、以下のような全社共通の機能を担います。

  • 高度専門人材の集約: 希少なデータサイエンティストやデータエンジニアを確保する。
  • 技術基盤・ガバナンスの統括: 全社データ基盤の整備、分析ツールの標準化、セキュリティ基準の策定。
  • 人材育成と技術支援: 社内研修の提供や、事業部門への技術サポート。

Spoke(事業部門)の役割

各事業部門の「スポーク」には、現場業務を理解したデータアナリストや、データ活用推進担当者を配置します。

  • 業務課題起点の企画: 現場のリアルな課題を発掘し、データ活用のテーマを設定する。
  • 現場への定着化: 分析結果を業務プロセスに組み込み、現場メンバーの活用を支援する。

成功のポイントは「連携」と「兼務」

このモデルの肝は、ハブとスポークが断絶せず、密接に連携することにあります。例えば、事業部門(スポーク)に配置されるデータアナリストが、組織上は中央(ハブ)にも所属する「兼務(マトリクス的な配置)」の形をとることが有効です。これにより、アナリストは現場の課題を深く理解しながら、中央の技術支援や評価制度の恩恵を受けることができ、孤立を防ぐことができます。

全社最適と事業最適を両立するハブ&スポーク型

4. ビジネス部門とCDO組織のコラボレーション

ハブ&スポーク型組織を機能させるためには、全社横断のCDO組織と、事業部門配下のアナリティクスチームが、あたかも一つの生命体のように連動する必要があります。

戦略と実行の役割分担

CDO/CDAO組織は「戦略的方向性(Strategic Direction)」を示し、事業部門はそれを踏まえた「実行(Execution)」を担います。具体的には、CDO組織が「高度分析(AIモデル構築など)」や「データ基盤整備」「人材育成」といったインフラを提供し、事業部門のチームはそれを利用して「KPIモニタリング」や「施策立案」といった日々の業務改善を行います。

データのサイロ化を防ぐ「標準化」

事業部門が独自に走ると、KPIの定義が部門ごとにバラバラになるリスクがあります。これを防ぐため、CDO組織は「標準化・共有・教育」の役割を担い、全社共通のデータ定義や分析手法のテンプレートを提供します。

CDO組織と事業部門のコラボレーション全体図

5. まとめ:組織設計こそが最大の投資

第2回では、データ活用を阻む壁の正体が「人材不足」だけではなく、「リーダーシップの欠如」と「組織設計の不備」にあることを解説しました。ビジネスアナリティクスのブログシリーズ③でも触れた通り、データドリブンな文化は一朝一夕には醸成されません。しかし、攻めと守りを統合したリーダーシップ(CDAO)を確立し、現場と中央をつなぐ「ハブ&スポーク型」の組織を構築することで、文化が育つための強固な基盤を作ることができます。組織と人が揃っても、実際の業務プロセスが変革されなければ意味がありません。

最終回となる第3回では、データ活用プロジェクトを成功させるための具体的な「プロセス(企画・分析・活用)」と、その裏側を支える多様な「エンジニア」の役割について、実務的な視点から解説します。

よくある質問:デジタル人材と組織について

経済産業省や独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発行する「DX白書2023」等でも指摘されている通り、少子高齢化による労働人口の減少に加え、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の需要急増により、IT人材やDX人材の需要が供給を大幅に上回っているためです。2030年には最大で数十万人規模の人材が不足すると予測されており、人材不足の解消はユーザー企業・IT企業問わず急務となっています。

従来のIT部門は既存システムの安定運用やセキュリティを重視する「守り」を重視している場合が多く、ビジネス価値を創出する「攻め」のDXとは評価指標や判断のポイントが異なるためです。DXを推進するには、デジタル技術を活用して事業成長を牽引するCDOやCAOといったリーダーシップが欠かせません。企業が「人材不足の解消」を目指す際も、単にIT人材を増やすだけでなく、ハブ&スポーク型のような役割を明確にした組織モデルを構築し、デジタル人材の専門性がビジネス現場で適切に活用された状態を作ることが、DX推進を成功させる鍵となります。

Ryohei Fujimaki, PhD.
Ryohei Fujimaki, PhD.

「全ての企業がデータに基づいて、より良い製品やサービスを生み出すことができる世界を創る」というビジョンを掲げ、2018年、NECから世界初の「特徴量自動設計技術」をスピンアウトし、dotDataを米国シリコンバレーで創業。企業の抱える様々な課題に対して、dotDataのAIがデータから人間が見つけられないようなビジネスの洞察(特徴量)を自動的に発見・抽出することを強みとし、小売、製造、金融、保険、サービスなどの幅広い領域で、企業のDX推進に貢献。 東京大学航空工学科卒。機械学習・人工知能分野の博士号取得。

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