データドリブン組織の設計図|データアナリストとは?役割とビジネスアナリティクスの本質(連載 第1回)
- ビジネスアナリティクス
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が「業務のデジタル化」から「データによるビジネス変革」へと深化するなか、データを活用した意思決定を担うデータアナリストとは何か、どのようなスキルが求められるのかといった人材定義があらためて問われています。dotDataでは以前、ブログ記事『データ活用推進のための人材と組織変革』において、データドリブン経営に必要な文化醸成と人材育成の全体像について解説しました。しかし、実際に組織を設計しようとした際、「具体的にどのようなスキルセットを持った人間を、どこに配置すべきか」という詳細定義に悩む企業は少なくありません。
本連載では、企業がデータ活用を成功に導くために必要な人材・組織・プロセスの「設計図」を、全3回にわたり実践的に解説します。第1回の今回は、AI活用が一般化する時代において価値が高まるデータアナリストとしての役割定義と、その中核スキルである「ビジネスアナリティクス(BA)」の本質について掘り下げます。
データ活用人材を定義するためには、まず「データ分析によって何を解決したいのか」という目的を明確にする必要があります。組織設計を行ううえでは、以下の3つのアプローチ(BI・BA・PA)を理解することが不可欠です。
これらの違いについては、以前のブログ『データからインサイトへ:BI、BA、PAの統合ガイド』で比較していますが、データアナリストの仕事や役割分担という視点で整理すると次のようになります。
ビジネスインテリジェンス(Business Intelligence)は、「何が起きているか(What is happening?)」を把握するためのアプローチです。KPIや市場動向など、売上データを含むさまざまなデータをダッシュボード化し、組織のメンバーが現状を客観的かつ直感的に把握できる状態をつくります。
ビジネスアナリティクス(Business Analytics)は、「なぜそうなっているのか(Why is it happening?)」という理由や要因を特定するためのアプローチです。BIによって可視化された現状に対し、特定のビジネス課題にフォーカスして分析結果を読み解き、「なぜ売上が落ちたのか?」「なぜこの施策は成功したのか?」といった改善のための具体的なインサイト(示唆)を導き出します。データアナリストが担う中心領域でもあります。
プレディクティブアナリティクス(Predictive Analytics)は、「これから何が起きるか(What will happen?)」を予測するためのアプローチです。統計数理や機械学習、AI技術を駆使して過去データを分析し、パターンを学習、未知の将来を予測することで、業務の自動化や最適化を実現します。

多くの日本企業において、データ活用が「レポート作成(BI)」で止まってしまう、あるいは「AI検証(PA)」が現場の実務と乖離するなど、成果に結びつかないケースが散見されます。成果につながる意思決定を支えるために最も強化すべき領域こそが、これらの中間に位置する「ビジネスアナリティクス(BA)」です。
ブログ記事『ビジネスアナリティクス:データに基づいた業務の分析』でも触れた通り、BAの本質は、データを単に見るだけでなく、課題解決のPDCAサイクルに組み込むことにあります。
BIは汎用的な「見える化」に重点を置きますが、BAは特定の課題に対して「なぜ?」を問いかけます。要因が明確になれば、「マーケティング施策を見直す」「営業プロセスを最適化する」といった、実効性の高いアクションプランを設計することが可能になります。
人材定義において重要な点は、BAには必ずしも高度な統計解析や複雑なツールが必要なわけではないということです。簡単な相関分析やクロス集計であっても、そこに強力な「業務知識(ドメイン知識)」と「目的意識」があれば、極めて価値の高い知見が得られます。分析技術の専門家でなくとも、現場の業務担当者が主体的にデータを分析し、自らの業務経験を背景に考察を加えることで、課題解決の糸口が見つかります。

ビジネスアナリティクスの推進にはどのような人材が必要でしょうか? 日本では「データ活用人材」と一括りにされがちですが、実務においては「データアナリスト」と「データサイエンティスト」の役割を明確に分けることが、人材定義の第一歩となります。
データアナリストは、主にBIとBAの領域を担当し、業務課題の解決や意思決定を支援する役割を担います。
一方、データサイエンティストは、主にPAの領域を担当し、高度な予測モデルを構築して新たな価値を創出する専門職です。
米国ではこれらの職務定義は明確に異なっており、業務におけるデータ活用、つまりビジネスアナリティクスとデータドリブン経営の推進の多くをアナリストが担います。一方で、データサイエンティストはその専門性を生かした高度な技術的プロジェクトに取り組むという役割分担が確立されています。

組織としてデータアナリティクスを推進するためには、単に「分析ができる人」を採用・育成するだけでは不十分です。データ活用プロジェクトを成功させるためには、以下のような3つのロール(役割)による三位一体のチーム体制が必要です。
これは前述のデータアナリストの役割に相当します。データの抽出・加工・可視化を行い、インサイトを提示する実務担当者です。
ビジネスとデータの「ハイブリッド型人材」です。企業や部門が抱える経営・業務課題を把握し、それをデータによってどう解決するかを構想(企画)する役割です。「データはあるが、どう活用して良いかわからない」という状況を打破し、プロジェクト全体を牽引します。
これは主に業務部門の現場担当者を指します。分析結果を適切に読み解き、自らの業務における意思決定やアクションに反映させる役割です。現場が分析結果を理解し、分析者と対話できるようになることで、初めてデータは価値を生みます。

今回は、データ活用の種類(BI/BA/PA)と、その中核を担うデータアナリストの定義について解説しました。DXの本質がビジネスモデルや業務プロセスの変革にある以上、AIモデルを作る技術力だけでなく、データの中に潜む「なぜ(要因)」を解き明かし、具体的なビジネスアクションへと翻訳できる「データアナリスト」の存在こそが、組織の競争力を左右します。
次回(第2回)は、こうした人材が最大限にパフォーマンスを発揮するために必要な「組織設計」と「リーダーシップ(CDOの役割)」について、日本企業の特性を踏まえた現実的なモデルを解説します。
本記事ではデータアナリストの役割を、主にビジネスアナリティクス(BA)領域を担い、ビジネス課題の解決を支援することと定義しています。具体的には、顧客データや売上データを読み解き、事象の「なぜ(要因)」を特定して、現場や経営層の意思決定をリードすることがデータアナリストの仕事です。一方、データサイエンティストとの違いは、サイエンティストが将来予測やAIモデルの構築(PA)といった技術的実装に重点を置く点にあります。データアナリストの仕事内容は、よりビジネスの現場に近く、データと施策の橋渡し役と言えます。
データアナリストに必要なスキルを挙げると、高度なプログラミング技術以上に、業務理解と論理的思考が重要視されます。データアナリストに向いているのは、データの分析結果を単に報告するのではなく、そこからコンサル型の提案を行い、周囲を巻き込んで改善を進められる人材です。必ずしも統計の専門家である必要はなく、分析の目的(Why)を常に問いかけられるデータアナリストには、業務知識(ドメイン知識)を持つ現場担当者がリスキリングによってなるには非常に適したポジションとも言えます。
DXが「業務のデジタル化」から「変革」へと進む中、データアナリストの需要は急速に高まっています。AIが普及しても、分析結果の意味を解釈し、具体的なビジネスアクションに翻訳する能力は代替されにくいため、データアナリストの将来性は非常に明るいと言えます。市場における価値の高まりに伴い、専門職としてのデータアナリストの年収水準も上昇傾向にありますが、今後は企業内でデータアナリストを目指す業務担当者が増え、組織全体でスキルを底上げしていく動きが加速すると予測されます。