Salesforceをご利用中の方であれば、リードや商談、取引先、担当者、活動履歴など、日々膨大な営業データに囲まれているのではないでしょうか。ダッシュボードには、コンバージョン率やパイプラインの金額、成約件数といった主要なKPIが並びます。しかし、こうした数値だけでは、顧客の行動や意思決定の背景までは見えてこず、「なぜこの結果になったのか」「次に何をすべきか」といった深いインサイトを得るのは容易ではありません。
たとえば、以下のような疑問はありませんか?
なぜ、見た目は似ているリードでも、成約に至るケースとそうでないケースがあるのか?
どのような営業活動の順序や条件が、有望な見込み客を見極める手がかりになるのか?
成果が伸び悩む営業担当者が、どうすればトップセールスに近づけられるのか?
営業マネージャーがSalesforceレポート作成に追われることなく、戦略の立案や成果の最大化に注力するにはどうすればよいのか?
こうした問いに答えを見つけられれば、営業・マーケティング・アナリストなど、さまざまなチームの生産性を大きく高め、売上の拡大につなげる強力な原動力になるはずです。
出典:Salesforce Developers「Sales Cloud Overview Data Model」
上の図は、Salesforce Sales Cloudにおける基本的なデータ構造を示しています。ご覧の通り、複雑に絡み合ったデータの中から、本質的なビジネスシグナルを見つけ出し、それを次のアクションにつなげていくことが営業分析の役割です。
しかし実際には、このようなマルチオブジェクトにまたがるデータ分析は、高度なスキルを持つアナリストにとっても簡単な作業ではありません。従来の営業分析ツールは強力ではありますが、使いこなすには専門知識や手間のかかる設定が求められ、分析結果に至るまで時間がかかります。その解決策として注目されているのが、AIによる営業分析です。AIを活用することで、データの準備や分析モデルの構築といったプロセスの多くを自動化でき、より迅速かつ手軽にビジネス上のインサイトを得ることが可能となります。
本記事では、「リードから商談へのコンバージョン分析」という、実際の現場でもよく直面する重要なユースケースを取り上げながら、SalesforceのCRM AnalyticsやTableauによる従来型のアプローチと、dotData Insightが提供する新しいAIドリブンなアプローチを比較していきます。
商談成約の背景にある“本当の要因”は、フラグ管理だけでは見えてこない
リードが商談に転換したかどうかは、Salesforce上では「IsConverted = True」というフラグで簡単に判定できます。基本的なレポート機能でも把握可能です。
しかし、本当に知りたいのはその先にある「なぜこのリードは成約に至ったのか?」という問いへの答えです。リードがどんな経路で流入し、どのような接点を経て、どう動いたのか。その一連の流れを時系列で捉え、背景まで掘り下げて初めて、有益な気づきや改善のヒントが得られます。
営業活動を改善するために本当に答えを知りたいのは、次のような問いではないでしょうか?
ユーザーへの影響 :あるマーケティングキャンペーンから獲得したリードは、特定の営業チームが対応したほうが商談化までのスピードが早いのでは?
コンタクトの頻度 :メール・電話・面談など、商談につながるまでにどれくらいの接触回数が最適なのか?リードの流入元や業種によって違いはあるのか?
タイミング :ミーティングの設定や電話のタイミングなど、営業活動が行われた「いつ」が商談の成否に影響しているのか?
属性情報 :顧客の業種や規模、関係する担当者の役職などが、商談の成否にどう影響しているのか?
製品 :リードの段階で興味を示していた製品は、その後の成約率や顧客のLTVとどんな関係があるのか?
こういった問いに答えるためには、Salesforceに散らばるデータをひとつにつなぎ、全体を俯瞰して分析することが重要です。
リード(Lead) :見込み客の初期情報やステータスを保持する核となるレコード
取引先(Account) :リードが属する企業情報
取引先責任者(Contact) :リードや商談に関連する個人情報
商談(Opportunity) :商談成立時に作成される契約の詳細レコード
イベント(Event) :リード、取引先責任者、取引先、商談に紐づく会議や予定
タスク(Task) :電話、メール、ToDoなどの記録
リード履歴(Lead History) :リードのフィールド変更、ステータス更新、所有権移動の履歴
こうしたマルチオブジェクトのデータに時間軸(タイミングや履歴の変化)という要素が加わると、分析の複雑さは一気に増します。標準的なSalesforceのレポート機能では限界があり、本質的なインサイトを得るには、マルチオブジェクトに対応した高度な分析手法が必要になります。
従来のCRM AnalyticsとTableauによる営業データ分析
営業データ分析のツールは数多くありますが、Salesforceユーザーの多くは、Salesforceが提供する2つの強力な分析プラットフォーム、「CRM Analytics」(旧:Tableau CRM / Einstein Analytics)と「Tableau」を活用しています。どちらも優れたツールですが、そのアプローチには違いがあります。
出典:Salesforce「CRM Analytics ダッシュボードを使ってみる」
Salesforce CRM Analyticsのダッシュボードは視覚的に洗練されていますが、構築には手間がかかり、詳細な分析機能が不足することもあります。
CRM Analytics:Salesforceネイティブならではの分析体験
CRM AnalyticsはSalesforceに統合されたBIツールで、Salesforce特有のデータ構造に最適化されている点が大きな強みです。
利用の流れ
データ準備(データフロー/レシピ): 最初に、Salesforce上の各オブジェクト(リード、取引先、担当者、商談、ToDo、活動、リード履歴など)から過去の営業データを取り込みます。取り込みには、レシピビルダーまたはより複雑なデータフローエディタを使い、オブジェクト間の結合関係(例:リードと活動、コンバージョン後の商談など)を定義します。リード履歴から時系列の変化やステータス更新を読み取るには、丁寧な変換ロジックが求められます。
データセットの作成: 準備したデータは、CRM Analytics内のデータセットとして保存されます。データ量や結合が多い場合は、パフォーマンスを意識した設計が必要です。
分析と可視化(レンズ/ダッシュボード): 作成したデータセットをレンズで探索し、グラフやチャートを作成します。たとえば「第4四半期に商談化したリードの傾向を分析する」などの比較分析には、Compare Tablesの活用や、場合によってはSalesforce独自のSAQL(Salesforce Analytics Query Language)によるカスタムロジックの記述が必要になります。
ダッシュボードの組み立て: 複数のレンズを組み合わせてインタラクティブなダッシュボードを作成し、関係者に共有します。
出典:Salesforceヘルプ「データプレップを使用したレシピの作成」
結果、Salesforce CRM Analyticsのレシピは、構築が進むにつれて急速に複雑化する傾向があります。
ユーザーの使用感
使いやすさ レシピは視覚的なUIで基本操作は直感的ですが、複雑な結合や変換には一定の学習コストが必要です。SAQLを使う場面ではコーディングスキルも求められます。
営業分析のスピード 初期設定(レシピ作成・データ結合)には時間がかかります。セットアップが完了すれば高速に探索できますが、分析内容を変えるには準備工程からのやり直しが必要になることもあります。
作業負荷 マルチオブジェクトの結合や変換、SAQLの記述には、相応の工数と知識が求められます。
必要なスキル 本格的なマルチオブジェクト分析には、CRM Analyticsに精通した人材やデータモデリングスキルが必要です。セールスオペレーション担当が自力でセットアップするには、専門的なトレーニングが前提となるでしょう。
CRM Analyticsのまとめ
メリット:Salesforceネイティブで、オブジェクト構造やデータの関係性をそのまま活用できる。
デメリット:初期構築に時間と専門知識が必要。SAQLやデータ変換ロジックの設計は非エンジニアにはハードルが高い。
必要なもの:CRM Analyticsのスキル、データ構造の理解、初期セットアップにかかる時間と労力。
Tableau:営業分析のための柔軟な強力ツール
Tableauは、豊富な可視化表現と、Salesforceを含むさまざまなデータソースとの接続性に優れたBIツールです。ダッシュボードは視覚的に洗練されており、Salesforce画面内に埋め込むことも可能です。
出典:Tableau Insights Delivered Directly to Salesforce
Tableauのダッシュボードとレポートは視覚的に魅力的で、Salesforceに埋め込むことができます。ただ、生データからダッシュボードを作成するには時間がかかります。
利用の流れ
データ接続と抽出 Salesforce用の組み込みコネクタで、必要なオブジェクト(リード、取引先、担当者、商談、ToDo、活動など)を選択・接続します。オブジェクト間のリレーションは自動検出される場合もありますが、正確な分析のためには手動での確認・調整が望まれます。特にアクティビティログなどの大規模データは、抽出時のフィルタ設計が重要です。
データ準備(Tableau Prep/Desktop) Tableau Desktopでの結合やブレンド、あるいはTableau Prepでの変換・クリーニング処理によって、複雑なデータの整形が可能です。たとえばリードコンバージョン前の活動ログの分析には、時系列順や関連性の考慮が不可欠です。
ワークシートおよびダッシュボードの作成 ドラッグ&ドロップで直感的にグラフを作成できますが、条件が複雑になると計算フィールドやLOD(詳細レベル表現)の活用が必要です。たとえば「特定業界×役職のToDoを持つリードの成約率分析」など、高度なセグメント分析には綿密なロジック設計が求められます。
ダッシュボードの公開と共有 完成したダッシュボードは、Tableau ServerやCloudを通じて社内の関係者と共有・展開できます。
Tableauは強力なデータ準備機能 を備えていますが、その効果を最大限に引き出すには高度な知識と一定の作業時間を要する場合があります。
ユーザーの使用感
使いやすさ 視覚的操作はわかりやすく、基本的な可視化はスムーズに行えます。ただし、Salesforce特有のデータ構造に基づいたマルチオブジェクト分析を行うには、結合・ブレンド・LODなどの高度な機能理解が必要です。
営業分析のスピード 接続・抽出から分析までには一定の準備時間がかかります。特にデータ量が多いSalesforce環境では、モデル設計やパフォーマンス調整に工夫が必要です。
作業負荷 オブジェクト間の関係性を正確に保ったデータ準備には、相応の時間と専門性が求められます。複雑な分析では計算式やフィールド設計の負担も大きくなります。
必要なスキル 高度な分析には、Tableauの中~上級スキルに加え、Salesforceのデータ構造への深い理解が必要です。
Tableauのまとめ
メリット:豊富な可視化機能と柔軟なデータ接続。Salesforce以外のデータとも組み合わせやすい。
デメリット:Salesforceの複雑な構造に対するデータ準備には時間がかかり、パフォーマンス面での課題も。追加ライセンスや専用スキルが必要。
必要なもの:Tableauのデータ準備スキル、Salesforceの構造理解、設計・試行錯誤にかかる時間。
dotData InsightによるAIドリブンな営業分析
CRM AnalyticsやTableauは優れた営業分析ツールですが、リードから商談へのコンバージョンといったマルチオブジェクトにまたがる深いインサイトを得るには、データ準備やモデリング、分析に多くの手作業と専門知識を要するケースが少なくありません。
こうした課題を解決する新しいアプローチが、dotData InsightのようなAIドリブンな分析です。
まずは、dotData Insightを使ってSalesforceデータを迅速かつ効果的に分析する流れをハイライト動画でご覧ください。
作業の進め方
接続と選択 まずSalesforceに接続し、対象テーブル(今回はリード)とKPI(たとえば「isConverted = true」)を指定します。次に、AIに探索させたい関連オブジェクト(アカウント、コンタクト、商談、タスク、イベント、リード履歴など)を選びます。
dotDataのAIによる特徴量の自動抽出機能 ここからがdotData Insightの本領発揮です。従来のように手作業で結合や変換を定義する必要はありません。dotDataのAIが数千通りのパターンを高速かつ自動で探索し、「キャンペーンX経由で流入し、Z日以内にアクティビティYが発生した場合」や「業界Aのアカウントに、職種Bのコンタクトがいる場合」といった、成約率に影響を与える有意なルールを発見します。
ビジネスセグメントの分析 発見された特徴量は、「ビジネスセグメント」として自動的に整理され、ユーザーは数百の候補をレポート形式で確認できます。たとえば、「10〜12月にスケジュールされた会議があった」「リードソースがパートナー紹介」「最終コンタクトが成約の5日前」などの条件が、影響度と対象母集団の大きさとともに数値化されて表示されます。
ビジネスの仮説を構築 複数のセグメントを組み合わせることで、KPIに与える影響を具体的に可視化できます。日付や数値に関しては、AIが自動的に最適な閾値を提示します。たとえば「10〜12月にミーティングを実施した場合、コンバージョン率が上がる」という発見に対し、その範囲をそのまま使うことも、業務知識に基づいて調整することも可能です。dotData Insightは、以下のように複数の要因を積み重ねた影響もすぐに表示します。
要因1:「10〜12月にスケジュールされた会議」→ 成約率が8%から12%に上昇
要因2:「関心製品にXが含まれていない」→ 12% → 16%に上昇
要因3:「週末にディスクオリファイされた」→ 16% → 20%に上昇
これらは、過去のデータからdotDataが自動的に見つけた「コンバージョン率の高いセグメント」の具体例です。
ユーザーの使用感
使いやすさ dotData Insightは、高度な分析処理をすべてAIが自動で行うため、ユーザーはKPIと対象データを指定するだけで分析を始められます。パターンの確認やセグメントの組み合わせも直感的に操作でき、SQLやデータモデリングの知識は不要です。
営業分析のスピード 従来の手動分析に比べ、圧倒的に短時間でインサイトを得られます。複雑な準備や繰り返しの検証も不要で、オブジェクトをまたぐパターン探索が一気に加速します。
作業の負担 仮説を立てて検証する、という従来のプロセスから、AIが発見したインサイトを活用するスタイルに変わります。分析担当者は、検証よりも「どう活かすか」に集中できるようになります。
必要スキル プログラミングや統計の知識がなくても利用可能で、営業マネージャーや業務部門のユーザーにも親しみやすい設計です。統計解析はAIが担うため、ユーザーはビジネスの視点で操作するだけでOKです。
dotData Insightのまとめ
メリット:マルチオブジェクトを横断したパターン探索や要因分析を、AIが短時間で自動化。手間のかかるデータ準備や仮説検証を省き、インサイトをすばやく提供。専門知識なしで高度な分析が可能。
デメリット:AIが発見したパターンの意味を読み解き、どう活用するかは、ユーザーのビジネス理解に委ねられます。また、dotData Insightは営業ダッシュボードではないため、CRM AnalyticsやTableauの代替ではなく、あくまで“補完・強化”する存在です。
必要なもの:KPIとSalesforceデータに対するビジネス的な理解、そしてAIが導く発見を活かす意欲と判断力。
リードコンバージョンを超えて広がるAIドリブン営業分析
dotData Insightのように、Salesforce全体にまたがる複雑なパターンをAIが自動で発見できる仕組みは、リードの分析だけでなく、あらゆる営業・顧客活動に応用可能です。たとえば以下のような活用が考えられます:
初年度解約の予測:アカウント属性やケース履歴、アクティビティの組み合わせから、離脱の兆候を早期に検出。
アップセル/クロスセル機会の特定:過去の成約パターンを学習し、製品ごとに反応しやすいアカウントや商談を抽出。
営業・マーケティング施策の最適化:キャンペーン参加と行動ログ、商談結果を一体で分析し、効果的な施策の条件を特定。
営業パフォーマンスとプロセスの効率化:タスクの連鎖やイベントの頻度、ステージごとの滞留時間と成果の相関を可視化し、ボトルネックを明らかに。
これらに共通するのは、あらかじめ用意されたダッシュボードでは捉えきれない、データそのものが持つ複雑な相関関係をAIが自動的に浮かび上がらせるという点です。そして、それらは最終的に収益成長や顧客体験の向上といった、より大きなビジネス成果へとつながります。
セールスデータを新しい視点で見てみませんか?
膨大なデータの整理に時間を費やし、手探りでリードと成約の関係を探る作業はもう終わりにしましょう。AIを活用した営業分析で、Salesforceデータにある潜在的なニーズやインサイトを発見し、営業戦略の最適化を実現しましょう。
Walter brings 25+ years of experience in enterprise marketing to dotData. Walter oversees the Marketing organization and is responsible for product marketing and demand generation for dotData. Walter’s background includes experience with both software and hardware companies, and he has worked in seven different startups, including three successful bootstrap startups.